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さらさらと画用紙に林檎を描くと、色をつけていく。
「林檎は赤だけではなくて、こんな風に色を重ねていくと立体感が出るんだ」
確かに色を重ねて塗り込んでいくと、なんとも言えず味のある林檎が描きあがっていく。
静かな図書館に色鉛筆を塗る音だけが聞こえていた。
あの日から図書館に行くと、必ず隣りに座るようになった人。
まるで私を待っていたかのように。
「色を重ねるのが随分うまくなったね」
確かに絵に立体感が出てきたように思う。
「空を書いてみたい。真っ青な空と雲、これ難しいの」
「実際の色を描かなければいけないというものではないよ。例えば、屋根の瓦が黒であったとしても違う色を使ってみるのもありかなと思うんだ」
この人といると落ち着く。
気を使ったり、身構えたりしやすい自分が自然体でいられる。
静かなリズムで流れる時間さえ心地よい。
なぜ?
答えはわからないが、その人といると優しい気持ちになれた。
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