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咲きだしてから、そんなに時が過ぎていない山茶花に雪が降った。
ふっと吐く息が白い。
図書館のいつもの席に座り、先ほど撮った山茶花のスケッチを始める。
やはり山茶花にのった雪を描くのは難しい。
ここへ来る度に待っていたかのように、隣りの席に座る彼が来ない。
妹さんの20才のお祝いをしているのかも…
翌日もその翌日も、ずっと彼は来なかった。
山茶花に降った雪のスケッチの雪はそのまま残されていた。
彼が来なくなって1ヶ月が過ぎようとしていた。
「ここに座っていいですか?」
私よりも五才くらい年上の女性だろうか、上品な装いと鈴が鳴るような声をしている。
彼女はクレパスを机の上に出すと描きかけの風景画に色をのせていく。
秋の川の流れと家並みが見事だ。
目を奪われて、その様子を見ていた。
「山茶花の絵を描いているの?上手ね」と手を止めて言った。
「いえ、雪が上手く描けなくて」
「確かに難しいわね、雪の一欠片を連続して描くと面白いわよ」
保存してある雪ののった山茶花の写真。
よく見ると雪が、ひと粒ごとに分かれている。丁寧に雪を描いていく。
すると、生命が宿るかのように雪が描かれていった。
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