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「なあ、タケル」
工場の生産ラインで黙々と作業を進めるタケルに、同僚のユウジが声を掛けてきた。
「ここも、もう終わりらしいぜ」
「終わりって、俺たち、また解雇されるってことかい」
タケルは、さして驚きの表情も浮かべずに淡々と答えた。タケルたち派遣労働者は、消耗品であり、使い捨ての要員であることは誰もが自覚していた。その時がいつ訪れるかは、彼らには予想できなかったにせよ。
「現地に工場を移すらしい」
「現地って、火星ってことかい。」
タケルは不意のユウジの問い掛けに手が止まった。
「ここの工場の原料の大半が火星からの輸入だからね。現地生産に切り替えた方が、効率がいいという判断ってとこかね」
ユウジはタケルの問いに答えるように、自分の疑問を重ね合わせた。
「おい、そこの二人、黙って仕事しろ。」
工場の監督官に彼らの挙動が目に留まったのか、監督官から叱咤の激が飛んできた。
「やべえ。続きは後で・・・」
ユウジは顔を持ち上げて、監督官の方に愛想笑いを返すと、何事もなかったかのように再び止めた手を動かし始めた。
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