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一体、他の皆はどうしているのだろ、この寒さの中で。
そう思ったゲイスは首を左右に振って、回りの皆に目をやった。一番近くにいたサキの姿が目に留まった。何かに包まって「スヤスヤ」と気持ち良さそうに眠っている様子だった。
不思議に思ったゲイスはサキが寝ている所に近づいた。間近で見ると、着ていたジャケットを足の爪先まで伸ばして包まっていた。
「この腰までしかないジャケットが、どうして足の爪先まで伸びるのだ」
ゲイスは試しに自分の着ているジャケットを、両手であちこち引っ張ってみた。ジャケットはゲイスの期待に答える気配を全く見せなかった。
寒さに凍えるゲイスは、少しでも寒さを防ごうと両手でジャケットの襟を立て「『ジャケットを伸ばす』事なんか出来るはずねえよな」と独り言を呟いた。
すると、「承知しました」と言う声が、ジャケットから聞こえたかと思うと、ジャケットの中央部分が割れて、中に収納されていた生地が独りでに伸びた。そして、ジャケットの裾は足元にまで達した。
ジャケットの襟を見ると、襟のボタンが赤く点灯していた。
「もしかして、このジャケットの襟のボタンか」
ゲイスは何度か襟のボタンを押したが、赤い点灯と消灯を繰り返すだけで、事態は何も変わらなかった。
「どうなっているのだ。これじゃあ、今度は伸びた『ジャケットを縮める』事が出来ないじゃないか」すると、またジャケットから「承知しました」と言う声が聞こえ、ジャケットは元のサイズに縮んだ。
「なるほどね、襟のボタンが音声認識のオン・オフスイッチで、音声認識でジャケットが伸び縮みするってことか。全く、アイツらは凝った事をしやがる」
「おっと、いけねえ」
ゲイスは思わず股間を押さえた。寒さのせいか、急に尿意を感じた。ゲイスは、あたりをキョロキヨロと見回した。
「オレ、ホントに馬鹿だな。こんなとこにトイレなんてあるわけない」
ゲイスはそう呟くと、股間を両手で押さえたまま神殿の隅に駆け出して行った。
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