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「ネーちゃん。ビールおかわり」
タケルはユウジの話を無視するかのように、空のジョッキを店員の鼻先に突き出した。
「俺ももういい年だし、ここらで安定した仕事に身を置きたいと思っている。タケル、お前はどう思っている」
「火星ねえー。あんまり考えたこともないねえ。火星にも酒場はあるのかい」
「茶化すなよ、タケル。俺は本気だ」
ユウジは真顔でタケルに向き直った。さすがのタケルもユウジの真剣な眼差しに心を揺さぶられたのか、身を乗り出してユウジの目を直視した。
「オメエ、火星から帰って来た労働者にあったことがあるか。俺はねえ」
二人が店を出たのは真夜中過ぎであった。
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