第一章 旅立ちの時

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「ネーちゃん。ビールおかわり」  タケルはユウジの話を無視するかのように、空のジョッキを店員の鼻先に突き出した。 「俺ももういい年だし、ここらで安定した仕事に身を置きたいと思っている。タケル、お前はどう思っている」 「火星ねえー。あんまり考えたこともないねえ。火星にも酒場はあるのかい」 「茶化すなよ、タケル。俺は本気だ」  ユウジは真顔でタケルに向き直った。さすがのタケルもユウジの真剣な眼差しに心を揺さぶられたのか、身を乗り出してユウジの目を直視した。 「オメエ、火星から帰って来た労働者にあったことがあるか。俺はねえ」  二人が店を出たのは真夜中過ぎであった。
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