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新居に越してきて数日余り。処分した物が多かったので荷物は少なく、全ての荷解きを済ませた徳間は、縁側に出た。所謂、内縁というもので、縁側の外側にガラス戸があり、居間との境目に障子がある。
冬に入り、カラタチの木は実を落としている。葉も少なで棘が目立ち、物寂しい印象だ。だが、春には美しい白い花を見せてくれるだろう。アゲハ蝶も飛び交うはずだ。カラタチの葉は、アゲハ蝶の幼虫が好んで食べる。
垣根の向こうには、隣家の勝手口があった。庭の左手が通りに面していて、取ってつけたようなアルミの柵、兼、引き戸がある。伸縮性で片開きのものだ。
他には物干し竿しかない庭を楽に一望し、徳間はアルミ柵の前で目を止めた。
なんだろう? 丸い物体が、柵の前にどんと置いてある。今朝、庭の様子を見た時は、なかったはずだ。
妻が好んで、朝食に出していたロールパンが頭に浮かんだ。だが、大きさはロールパンの比ではない。サッカーボール二つ分ほどだ。
「……犬?」
徳間が身を乗り出してよく見ようとすると、縁側の板が軋みを上げた。その小さな音を聞き入れて、丸い物体から三角の形をしたものが、二つ盛り上がる。耳だった。ぴくり、ぴくり。音に反応している。やがて丸い形は崩れて胴体と頭になり、胡乱げな眼差しが徳間に向けられた。
犬だ。次は疑問なく頷くと、徳間は柵の前で丸まっていた犬をまじまじと見た。
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