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徳間は元々、分譲マンションに住んでいた。妻と相談し、息子が幼稚園の頃にローンを組んで買ったものだ。ローンは完済した。住み慣れた持ち家を手離し、家賃を払って借家に移り住むことに、息子夫婦は良い顔をしなかったのである。それはそうだろう。何故に必要のない出費を増やすと言うのか、そうそう他人の理解は得られない。
徳間は自分の年金で日々の生活が十分に賄えること、退職金が残っていて蓄えがあることを説明し、渋る息子を説得した。
それに、マンションは築年数が経っていて、徳間が死んだ後に処分させる手間を、息子にかけるのも悪いと思っていたのだった。息子夫婦は、別にマイホームを建てている。嫁の趣味だと言う「北欧風」の小洒落た一戸建てだ。
「わざわざ引っ越さなくても別にいいじゃないか、この家で」
「この家に居ると思い出すんだよ」
それでも「頑固親父め」と顔を顰めていた息子は、その徳間の言葉でやっと口を噤んだ。
電話口の息子の声に意識が戻る。
「そうか? じゃあ近い内、暇を見つけて遊びに行くから」
「ああ、待ってるよ」
最後に孫と一言二言を話して、電話を切った。
居間の片隅に置いた小振りの仏壇を一瞥してから、徳間は再び縁側に出る。
そろそろと様子を見ると、アルミ柵の前にまだ犬は丸まっていた。
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