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迷い犬だろうか? 野犬だろうか? 徳間が子どもの頃は、野良犬を空き地や河川敷などでよく見かけたものだったが、近頃はめっきり見なくなった。こういう時は警察か、保健所か、どこに連絡をすればいいのだろう。スマートフォンを片手に徳間は困り果てる。
犬は苦手だ。昔、野良犬に追いかけられたことがある。まだ徳間が五つか六つの時だ。幼い子どもにとって、体躯の大きい成犬は正に怪獣である。
お陰で、徳間は猫派なのだ。猫は良い。さほど大きくならないし、吠えない。お手やお座りと言った芸は覚えないが、散歩に連れて行く手間もなかった。体力の落ちた年寄りには、御誂え向きだろう。
云々と悩んだあと、柵越しならば危険は少ないと判じて、徳間は庭に下りた。
近付いて見てみると、若い犬ではないようだ。眠たげに伏せ目がちとなった瞳は、うっすらと白濁しており、よくよく観察すれば毛に白髪も混じっている。正確な年齢は分からなかったが、老犬と表しても間違いはない。
首輪をしていることに気付き、徳間は安心した。捨て犬や野犬ではなく、迷い犬のようだ。野犬であったらしかるべきところに電話をしなければならないが、それで殺処分などになったら後味が悪すぎる。ーー而して、迷い犬の場合はどうすれば良いのだろう。またしても徳間が困惑していると、助け舟が寄ってきた。
「あら、サブじゃあないの」
隣家の奥さんだった。気圧わずに近寄ってきた足音を聞き入れ、犬は伏せた体制のまま目だけを上げる。
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