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――妻を亡くして10年近くなる。一人娘も結婚して孫も出来た所で幸せな環境にあるが、あえて女性と再婚や恋などどうでもいい。今年、60になるのに……彼は私に女性を紹介してくるが――
眉間に皺を寄せながら窓から一点を見つめていた。火宮がバスに乗り込み車内を見渡し近付いて来た。
『水瀬さん、出発しましょう。道が混んでたら嫌ですから』
『あ、ああ……』
私は運転席に乗り込みエンジンをかけて帽子を被りシートベルトを装着し出発の合図のクラクションを鳴らした。珍しく営業所の重役の見送りがあるが横目に車庫を緩やかに出ていった。
バスの後ろにグラデーション映える柔らかい西日を受けて、東の空には瞬き明るい星と月が手招きをしていた。
東上線の若葉駅に着く頃には辺りは暗く迎えの車で溢れていた
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