~月と星と~

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――女性タクシー乗務員の野口さん…。記憶はある…去年の台風の時にお乗せした…―― 『この度はご利用有り難う御座います』 水瀬は目を反らし素っ気ない言葉しかかけず、彼女は困る顔一つせずに頭を下げて車内に乗り込んだ。その後ろ姿を水瀬は見つめていた。 そんな水瀬の姿を火宮が厭らしい笑顔を見せながら肩を数回軽く叩き、耳元で嫌味混じりで耳元で呟いてきた。 『……ボソッ(ほらね?気になってるでしょ!チップくれる野口さん~♪)』 『そ、そんな事で気になった訳では有りません!』 水瀬は荒い口調で火宮に言いながら運転席に乗り込み、何か企んだ表情の火宮が左右を見渡しドアを締める合図を送った。 緩やかに水瀬が運転するバスが出発した。 『この度はご乗車有り難う御座います。この先、大宮と東京を経由して京都と大阪に向かいます…』 火宮は張りのある声でアナウンスしてマイクを降ろすと乗客との境にカーテンをかけて乗務員補助席に腰をおろした。 走り出すと二人の会話無く静かな時間だけが過ぎていった。途中の大宮と東京で乗客を乗せて夜の高速道路を走り出した。
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