湯船

１．桑野 美香

「半年前に、あたし引っ越したのね。一軒家。凄いでしょ？一人暮らしだけど。
　結構広々としてて、中でも凄いのがさ、お風呂よお風呂！アパートなんかに比べたら、まあー広い広い！毎日それが楽しみなのよー。
　でもね……何だろう、あたし、そんなにストレス溜まってるとは思ってないんだけど……お風呂に入ってるとね、次から次へと浮かんでくるのよ。
　何って、髪の毛よ髪の毛。長い髪の毛が取っても取っても……だから湯船に入ってる時なんか、もうそれとの格闘よ。ゆっくりなんかしてらんないし。あ、それがストレスなのかな？まあ、普通に抜けるのもあると思うんだけど、こんなに抜けるのかなあ、みたいな……。逆に不安よ、知らない内にストレス抱えてて、髪の毛抜けちゃって。
　ちょっと気持ち悪くない？昨日まで毎日よ。まあ、別にお化けの話じゃないけどさ。拍子抜けしちゃった？ごめんね。ある意味怖いっていうか｣

｢え？あーこれ？えへへ、似合ってる？一ヶ月前くらいかな。思い切ってばっさりいってみたんだ。
　どーお？あたし、綺麗？なんてね」

　そう言って、彼女はショートの髪の毛をなびかせて見せた。