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親の仕事を手伝っているし、学園時代の様に悪評に惑わされる人間はもういないだろう。 ただ、時々無性にあの黒髪をもう一度見てみたいなと思う。 あまりにもそんなことを考えすぎてしまったのかもしれない。 大学から帰ってマンションのエントランスを通り抜けようとすると、蘇芳が見えた。 人違いだと思った。 会いたいという勝手な思いが他人を蘇芳に見間違えさせたのだと思った。 「無視するなんてひどいですね。」 蘇芳に話しかけられてようやく彼が本物なのだと気が付く。 「何で突然こんなところにいるんだよ。」 驚きの感情は勿論あったし、嬉しい気持ちもあった。 けれども、口から出てきた言葉は訝し気で、心の中で自分を馬鹿にした。 嬉しいという気持ち一つ表に出せないなんて、コミュ障もいいとこだ。 「貴方に会いに来たんですが?」 ご迷惑でしたか? まるで、長年の友人に聞くみたいに言われて、上手く言葉を紡げない。 まともに話すようになって1年と少し、卒業してからは連絡すら無かったのだ。 「……良かったら、うち上がるか?」 何とかそれだけ伝えると、蘇芳は満足げに目を細めた。 ◆ マンションといってもごくごく普通のワンルームだ。 その上、ラノベと漫画がひたすら本棚に押し込められていて、その上入らなかった本が積んである。     
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