503人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
ただ、蘇芳にとっての時間も穏やかに過ぎていっていればいい。
◆
いよいよ卒業という時期になった。
当たり前だが、俺と蘇芳は別々の大学に進学予定だった。
「一緒に受験しますか?」
等と軽く聞かれたが、そもそも偏差値が違うだろうとスルーした。
お互いに都内の大学だが、どこに住むとかそういう話はしていない。
この時期、蘇芳は後輩たちから告白されまくっていて忙しそうだったし、スマホがあればいつでも連絡はできる。
実際会うかと聞かれれば、まあ、無いだろうなというのが正直な感想だが、お互いにそれは口には出していなかった。
卒業といっても特別な感慨は無かった。
泣くこともなかったし、誰かと大騒ぎするような事もなかった。
ただ、卒業証書を貰って、蘇芳に「卒業おめでとう。」と伝えただけだった。
荷物を全て引き払って空っぽになった寮の部屋をみて、漠然とああ終わったんだと気が付いた。
◆
大学生活は、順調だった。
相変わらず大して仲の良い友人は居ないが、親の用意してくれたマンションと大学との往復とそこに本屋が加わる程度だったが、気楽に楽しんではいた。
蘇芳とは連絡は取っていない。
向こうからも特になんの連絡もなかった。
きっと、蘇芳はとても忙しい日々を送っているのだろうと思う。
最初のコメントを投稿しよう!