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名前を出されてはじめて、ああ、あいつと認識できるかどうかといったところだろう。
そもそも、クラスにあまりなじんでいない自覚もあった。
昼休み、昼食を一緒に取る親しい友人もおらず、一人でイヤホンで音楽を聞いているか、持ってきたラノベを読んでいるかという位、一人だ。
だから、蘇芳が俺のことを知っているとは思わなかったのだ。
それは、突然だった。
社会科の教師に頼まれて、教材を片付けに特別棟に行った時のことだった。
ガタンという大きな音がして、そこが空き教室なことに不信に思う。
おずおずと覗いて見ると、中には蘇芳とそれから複数人の上級生が居た。
最初に思ったのが、強姦の現場に鉢合わせてしまった、だった。
実際、蘇芳は可愛らしいタイプでは無かったが、小柄な方で狙われてもおかしくはない。
けれど、様子がおかしかった。
一人を除いて、上級生はうずくまっていて、最後に立っている一人を蘇芳は回し蹴りで沈めたところだった。
バタンと倒れる上級生を無感慨に見下ろす蘇芳が、振り返ってこちらを見た。
音を立てたつもりもないし、振り返ったのは偶然だろう。
顔を引っかかれたのか、頬には小さな切り傷のようなものがあった。
その赤さと、大変な状況なのにガラス玉の様な瞳があまりにも鮮烈で、思わず見惚れた。
比喩では無いのだ。
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