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ただ俺に関しては基本無表情ではあったが、時々笑顔も浮かべるし、興味が無くなってしまったみたいに目をそらすことも無かった。
時々癖の様に、首の後ろを掻く仕草をする位しか特徴の無い男だ。
けれども、決してこちらに踏み込んでこない茨木と過ごすことは存外楽だった。
期待の眼差しで見られることも無く、侮蔑の表情を浮かべられることも無くただ友人としてそばに居る。
そんな経験は初めてだ。
「どうした?」
茨木のことをじっと眺めていると、訝し気に尋ねられる。
伺う様な視線が面白かった。
「いや、何でもない。」
そう返事をすると、直ぐに茨木の視線は俺から食事へと移る。
茨木は以前、俺に抱かれたい旨の話をしていた。
今の彼はとてもじゃないがそんな風には見えない。
俺のことを性的ないし恋愛対象として見ているとはとても思えない。
まるで聞き間違いだったかの様だった。
もう一度聞きなおそうかと思ったことは何度もある。
けれども、聞いたことは無かった。
思いつめた様に告白されても困る程度には今の距離感を気に入っていたし、逆にあんなのは気の迷いだと興味を無くした表情で見られることも嫌だった。
一言で言えば臆病だったのだ。
今にして思えば馬鹿みたいな見栄だった。
だから、自分のテリトリーに茨木を入れたことも無かったし、彼を庇うことも無かった。
茨木も何も言わなかった。
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