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だが今見るととてもひどい出来だからね、読まないでもらえるとありがたい」
「そ、そうですか…残念です…」
「それで?
そんな思い出を話してはい終わりって言うつもりなら、私はこの店で一番高い骨董品を売りつけるつもりなんだけど」
「良い品なら喜んで買わせて頂くよ。
…高校を卒業した後、私と雪割は交際を始めてね。
無知だった私に、雪割は丁寧に書き方を教えてくれた。
…私と雪割は互いに互いを支え合う夫婦であり、共に腕を競い合うライバルでもあった。
ああ…とても…とても、幸福に満ち溢れた日々だった。
日々の食事すらままならない程に貧しくはあったが、確かに幸せだった」
天都は両手で包んだ湯のみをじっと見つめていました。
本当に幸せな日々だったのでしょう。天都の目は、とても温かく、優しい物で。
…しかしその目の中に、悲しげな光がある事も、また事実で。
「私が初めて小説賞を取った日だった。
私は…私は浮かれて、他の女性と関係を持ってしまったんだ。
…その日は朝まで帰らなかった。
翌朝帰った私を待っていたのは、小さな小さな卓袱台の上に乗った、普段なら高額故に絶対に買えないであろうケーキが一つと、私の好物ばかりの夕食、
そして、私を待ったせいで疲れ果て、突っ伏して眠る雪割だった。
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