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ベッドに移動した記憶はハッキリとはないけれど、おそらく待ちくたびれて少し休憩、なんてつもりだったんだろう。
目が覚めた時、外は真っ暗で、携帯の液晶画面を見れば夜中の一時を回っていた。
インターフォン、鳴ったんだろうか。
“土曜日、うちに来た?”
月曜日の午前中、自販機のコーナーで出くわした営業部の女性ルーキー、保坂さんが話しかけてくる前にメッセージを送った。
「杜崎さん!お疲れ様です」
「お疲れ様」
「お一人ですか?」
「だいたい一人だよー」
聞いちゃいけないことだったかな、という表情が見てとれた。何と返していいのかわからず戸惑っている姿がかわいそうで、すぐに言葉を続ける。
「ほら、ここだけの話。島木さんたちのグループには入りたくなくてさ。一人の方が気楽だよー」
「あー!そうですよね」
入社一年目の新人にまで知られているグループなんて、悪目立ちし過ぎだ。
「神田主任、またトップでしたね」
嬉々とした表情を浮かべ、しかし普段の高い声を抑えたように彼女は言う。
「ふーん。そうなんだ。すごいね、いつも」
「憧れます、本当に。月島さんだってすごいのに、その二倍近くとってくるんですよ!」
私のことでも、私の彼氏のことでもない。褒められているのは、あくまで、会社の同僚の話。喜ばしいけれど、私には、喜ぶ権利がない。鼻を高くする権利もない。
「もっと、頑張らなくっちゃ」
「うん。良いお手本がたくさんいるね」
「はい!」
大学を卒業したての幼さが残る顔が、ふにゃりと崩れる。すごく可愛らしい。年齢差はたったの五歳だというのに、姉を通り越して母のような目で彼女を見守りたくなってしまう。
頑張ってね、とエールを送ると、今度は満面の笑みを浮かべて部署に戻っていった。
「ああいう子が…」
神田さんを好きになると、少しややこしいんじゃないかと余計な世話を焼く。私の頭の中で解決されることなので、ちょっとした想像は許してもらいたい。
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