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「保坂がどうかしました?」
「ん?」
今度は、営業部の次代エースが背後から気配もなく近寄ってきていた。
「びっくりさせないでよ」
「あんまり驚いてるようには見えませんけどね…で、保坂が何ですか?」
「ああ、可愛らしいなって。ああいう子がいると、部署も華やかだよね」
「確かに、真面目だし、一生懸命だし、愛想が良いし。取引先の年配社員さんとか、すげえ可愛がってくれますね」
納得、と頷くと、月島くんはすぐさま話題をすり替えた。
「そういえば、この前の納涼会なんすけど…」
「うん?」
なんなのよ。
なんなのよ。
なんなのよ。
『二次会が終わった後、若手の男営業だけで飲もうってなって。ノリで、好みの女性社員の話になったんですけど…まあ、案の定というか、島木さんが圧倒的人気だったんですよ。その後なんですけど、命知らずの新人が杜崎さんのことを揶揄するような言い方をして…
お尻が好みだっていうことから始まって…杜崎さんを夜のネタにしてるとか、肌が綺麗で顔を埋めちゃいたいとか、ヘラヘラしてて。主任が、それにブチ切れちゃったんですよ。
その後、めちゃくちゃ雰囲気悪くなって解散したんですけど…理不尽だし怒ると怖いしで、反感買ってはいますけど、実際トップだから逆らえるヤツなんかいないんで参りました。神田さんと同期の八代さんも、その日に限って早めに帰っちゃうし。
杜崎さん、主任と付き合ってるんですか?前は、主任が結構アタックしてましたけど』
なんで怒るのよ。それぐらい、いいじゃん。健全な若手営業マンなんだから、近くの女性で妄想ぐらいするわよ。
お尻が好みだって、毎日スクワットとステッパーで鍛えている甲斐があるってもんよ。私じゃなくて、なんで神田さんが怒るのよ。
変に誤解されたら、こっちが困るっていうの。
怒りなのか呆れなのかもわからなかったけれど、とにかく勢いで営業部に踏み入った。
後先考えなかったこの行動で、私は一気に営業部内で注目を浴びるわけだけれど、当然のことながらほとんどの社員が営業に出ていて、神田さんが捕まったのは奇跡だとも言える。
「…どうした?ここ、会社」
「知ってる。今夜、うちに来られる?」
一瞬、神田さんは面食らった顔をしたけれど、すぐに表情を崩した。少年みたいな笑顔が、少しだけ愛らしく見えた。
ゴリラのくせに。
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