17人が本棚に入れています
本棚に追加
落城不可、高嶺の花。
「お前、そろそろ異動くるべ」
「今月の数字やべー」
「彼女が最近怪しくって…」
二次会を終え、専務がタクシーに乗ったのを見送った後、若手に引っ張られて三次会に参加することになってしまった。
少し顔を出したら帰る予定だったのだが、酒との上手な付き合い方を知らない彼らを置いていくのも心もとなかった。
「じゃあここで、アンケートでーす!」
声を高らかに上げたのは、入社四年目のエノモトくん。とにかくイベントが大好きで、飲み会やバーベキューなどの祭りごとは、彼に任せておけば間違いない。以前、コイツに勧められた店に都子と会社帰りに寄ったのだが、料理も店内の雰囲気もどストライクで気に入った。なかなか使える男ではある。
「お気に入りの女性社員は誰ですか!」
かと思えば、こんな風にしようもないことを言い出したりもする男で、面倒を連れてくることも少なくない。
人気が誰に寄るのか、大体予想はついていた。
毎日深いスリットの入ったスカートを履いてくる島木は、外で戦ってくる男たちからすればオアシスのような存在だし、とにかく気配りがうまい。男の扱いに慣れているのは、断然彼女だ。一度抱いたことはあるけど、体の相性だって悪くなかった。
でも、なあ。
「じゃあ、集計でーす。島木さんが七票…保坂さんが四票。あとは、杜崎さんが二票…石井さんと川瀬さんが一票ずつ…かな」
用意周到な無記名投票で、俺は無難に営業の後輩である保坂の名前を書いて出した。字体ですぐバレてしまうだろうし、保坂なら可愛がっていても問題ない。本心はもちろん都子だが、変に探られるのも面倒だった。
普段は汗も涙も、ところによっては血も流している営業がこんな風にバカ騒ぎをするのも悪くない。
専務に勧められたテキーラが回っている頭で、ぼんやりとそんなことを考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!