その男、取扱い要注意。年中、猛獣。

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「プライドが高そう」とか、「お高くとまってる」とか、「遊んでそう」とか。 こんな言葉の凶器たちが向けられ始めたのは、大学を卒業してすぐのことだった。 飲食店にガソリンスタンド、保険代理店など多岐にわたって経営の手腕を発揮する九重グループ。そのグループの中でも、ベスト3の売上実績を誇る輸入車のディーラーに就職して早数年。 大した努力もせずに高校、大学とそれなりに名の知れたところを経て、天狗になっていたところもあるのかもしれない。その鼻をへし折られるのは、一向にかまわなかった。 けれど、恋愛に関してはド素人の私に、あろうことか島木里香はこんな罵声を浴びせたのだ。 「杜崎さんて、綺麗だよね。いっぱい男の人、泣かせてきたんでしょう」 会社の重役たちが雁首を揃える夏の納涼会。ほぼ全員参加が強要される。昨年までは秘書課のキレイドコロが重役のお供をしていたが、なぜか今年は総務課に白羽の矢が立った。 きっとこの、島木里香がいるからだ。 四月一日、めでたく常務への昇進を果たした宝井雅人に寵愛されていると、社内で専らの噂だった。 「そんなことないよ。私、今まで付き合った人とか本当少ないし」 「嘘でしょー。経験豊富そうだもん。結構遊んでたでしょ?」 彼女からすれば、もしかしたら悪気がないのかもしれない。本心からの言葉だという可能性もある。 しかしこの年になってもはや、こんな侮蔑発言が許されるとどうして思うのだ。 「確かにね。杜崎さん、話しかけないで、っていうオーラが出てるもん。そういうのに魅力感じる男の人って多いもんね」 「それで?何人斬りしてきたの?二桁でおさまる?三桁いっちゃう?」 島木里香の取り巻きたちが、待ってましたと言わんばかりに便乗する。 本当に醜い。女は徒党を組みたがる。 だから嫌なのだ。 彼女たちのようなタイプは例に漏れず、男の前での正しい振る舞い方を知っている。そして、こんな女たちに心を持って行かれる男がやはり、数多く存在することも否めない。 だから、私は経験が少ないと言っているのだ。そういう振る舞い方ができないから。 というか、知らないから。 綺麗だね、と言われれば、そんなことないですよと苦笑いで返す女。 私は、可愛くない女の代表だという自覚を持っている。
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