その男、取扱い要注意。年中、猛獣。

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「今日も綺麗だね、里香ちゃん」 「部長ったらお上手ー!もう一杯どうぞ!」 ほら、島木里香の圧勝だ。 「知ってました?島木さんと常務のこと」 「月島くん」 「あの人、今度秘書課に引っ張られるみたいですよ」 「…ふーん」 いまだにコピー機の設定方法がよく理解できていないくせに、と漏らす彼は、一つ年下の月島一樹。営業部の若手で、常に売上二位の座を守っている。 「島木さんは、男性の心を掴むのが上手だからね。営業部にも、ファンが多いって聞いたよ?」 「一部が騒いでるんすよね。だって、あんな深いスリット入ったスカート履かれたら、男は全員見るでしょ」 「ふふ、確かに」 「主任と俺は、杜崎さん推しです」 屈託のない笑顔を浮かべてトイレに立った月島くんに代わり、隣に腰を下ろしたのは営業部の主任。 「月島にちょっかい出されなかった?」 「島木さんより、私の方がいいって」 「んな当たり前のこと。二次会行かないだろ?」 「うん」 「俺、少し顔出すから終わったら家行くわ」 営業部の成績トップを守っているのは彼、神田圭次。 背が高くスマートで、スーツ姿が様になる。顔は少しゴリラのように見えないこともないけれど、少し見方を変えればイケメンにもなる。 口が上手で、女の子が喜ぶポイントをよく知っている。少し強引なところもあるけれど、拒否する女の子は少ないと思う。 「島木さんに嫌われてるのは、神田さんが原因だと思うけどなあ」 「俺が?なんで?」 多分、島木さんは神田さんが好きだ。島木さんが入社して間もなく、神田さんにつまみ食いされて本気になったとか。 彼女からしたら、今の私たちの関係は面白くないだろうなあ。 「そろそろ特定の彼女でも作ってくれたら、矛先はその子に向くのに…」 「俺たちのこと、バレてんの?」 「一回、鎌をかけられたことはある」 「ふーん。ま、いいや」 いつか神田さんが、三十五歳ぐらいに結婚したいと言っていたのを思い出す。あと四年、こんな関係が続くのだろうか。 「じゃ、後でな」 腰を上げた神田さんの後ろ姿は、やはり格好良く見えた。
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