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勘違いならそれでいい。それがいい。
このまま、神田さんが結婚する予定の三十五歳まで、あと四年。今の関係を続けることは構わない。
でもどうか、花嫁として隣に並ぶのは、私じゃありませんように。
「みーやこ」
お風呂上りの神田さんが、上機嫌で寝室のドアを開ける。顔の赤みはすっかり治まっていた。
「お疲れ様。明日、やっぱり出勤するの?」
「するよ。大安だしな。連休で家族旅行らしいから、どうしても明日納車がいいんだと」
「そっか。頑張るね」
「パワーチャージ、させてね」
さっきの沈み具合が嘘のように、何食わぬ顔で私の上に覆い被さる。
神田さんは、読めない。だから、私の直感も自惚れであればいい。
「神田…さんっ、」
「圭次、でしょ?」
感じている顔をしてくれる。
「みやこ」と名前を呼んで、求めてくれる。
私を、女として認めてくれる。
それだけで、私は救われている。
だからどうか、神田さん、早く幸せになって。
「今日もイヤらしかったなー、お前」
悪人顔で笑い、私の髪に指を絡めながら言う。あと数時間もすれば出勤だというのに、この体力はきっと、学生時代の努力の産物なんだろう。推薦を勝ち取ってサッカーの名門大学に行ったのはいいけれど、三年の夏に膝を痛めて辞めたと聞いた。
「神田さん、」
私が、神田さんを受け入れられない最大の理由。
「再婚、しないの?」
神田さんは、バツイチなのだ。
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