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何も、神田さんから決定的な言葉をもらったわけじゃない。
好きだ。付き合ってくれ。結婚してくれ。
何一つもらってはいないくせに、私は神田さんの気持ちを察してしまった。
島木里香にも言った通り、付き合った相手の数が少ないのは本当だ。人生を振り返っても、五人。少ない、というか、適切な数だと思う。
高校二年生の時のサッカー部キャプテンに始まり、直近は製薬会社の営業マン。
一番長く続いたのは、大学で同じゼミを専攻した野球少年。それでも付き合った期間は五か月と、世間の基準は下回る。
製薬会社の営業マンだけが自然消滅で、他は振ったのと振られたのが二回ずつ。
なぜか、誰かを好きになるというプログラムが欠落していて、というか、あったのは間違いないのだけれど、いつかのタイミングで落としてしまった。
諦めたわけじゃない。もう一度、誰かを好きになりたいとは思う。
“愛された方が幸せ”
そんな恋愛の風潮を否定するつもりは全くないけれど、愛せないのもなかなかツライ。好物でもなんでもない食べ物を、延々と食べ続けるのも地獄だ。
「神田さん、再婚しないの?」
隣で神田さんが、面食らったような顔をする。まさか、情事の後の甘い時間にそんな事を聞いてくるなんて、と。
「三十五ぐらいにするって、言わなかったっけ?」
「うん。でも、何も待たなくてもいいんじゃないかって」
「まだ、遊びたいしな。それより都子、」
「私と?まだ遊びたい?」
私を呼ぶ声を遮って、詰め寄る。神田さんは、いつも濁すから。都合の悪いことから、逃げるから。
関係が続くことは構わない。でも、そうこうしている内に神田さんが誰かを好きになるチャンスを逃すのはマズイ。
神田さんは、きっと、ちゃんと人を好きになれるから。
だから、勿体ないと思う。
「神田さん。私以外の女の子と、ちゃんと遊んでる?」
これは、私が張った精一杯のシールド。
神田さんだけじゃない。誰にも、侵入させたくない。
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