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「都子はズルいな」
そうだね。私はズルい。
神田さんの気持ちを知っているなら、言ってはいけないセリフだった。
でもね、神田さん。
私は、もう恋愛はしたくないよ。もうすぐ二十九歳にもなるし、家族も含めてみんなが結婚を促してくるようになった。でも、友達の入籍報告も出産報告も、どこか別の世界で起こっていることのように感じられるの。
「心配するな」
返す言葉が見つからなくて、私は口を閉じたままだった。それでも、よほど情けない顔をしていたんだろう。
神田さんは笑って、私の頭を撫でた。けれど、その目はどこか寂しそうで、私の予想はやはり間違っていないのだと確信する。
だから私は、気付いていないふりをする。
やっぱり、ズルくてごめんなさい。
数時間後、目覚めた時に神田さんは隣にいなかった。
低血圧で、朝が苦手。寝覚めにいつも冷たい水を飲むから、白湯にした方がいいよって勧めたのに、絶対聞かない。
口が達者でお調子者で、ムードメーカー。イライラしやすくて、思い通りにならないことがあるとすぐ怒る。上司にだって、当たり前のようにたて突く毎日。
それでも、営業成績は毎月ダントツのトップ。だから後輩からも慕われて、女の子にも定評がある。後で泣くことも承知の上で、彼女たちは神田さんを慕っている。
神田さんは私をズルいと言うけれど、彼女たちの立場からしたら、神田さんも相当ズルいよ。
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