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1 男、一冊の本
男は一冊も本を持っていなかった。
書店で手に取ることはあっても決して所有する事をしなかった。図書館で本がずらりと並んでいる様子をみると、そこに息づく知の巨大さに気圧されるような気がしたのだ。それを手元に置くことが怖かった。
ある朝男が目覚めると、枕元に一冊の本が置かれていた、革表紙に金属製の鍵がかけられた古めかしい本だ。鍵以外に細工はなく、タイトルすら印字されていなかった。
男は訝しく思いながらも本を持ち歩くようになった。装丁が気に入ったというのもさることながら、鍵がかかって中がわからないというのもよい、中身を想像する楽しみがある。
その日から男は奇妙な夢を見るようになった。
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