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アイビーの町は、セントラル地方の城下の外れに位置する。
10年前、アトラス戦役と呼ばれ、魔王軍がセントラルへ攻め込む入り口に位置した。
セントラルは二つの運河と山に囲まれた地方で、その運河の最も狭い場所に位置する。
激しい戦闘の末、魔王軍はアイビーを落とすことは叶わず、アイビーの町はそれ以降、最強の盾と呼ばれた。
防具屋アイギスは、防衛に特化した町の小さな工房を要する店。
店主ルヴァンは、若くして亡き父の工房をついだ。
アトラス戦役にも参加したが、その経験を活かした独特の防具を作るとして、一部の人々に人気だ。
「開いてるかい?」
店の外から覗くのは、どうやら初めての客のようだ。
「どうぞ」ルヴァンは言った。「ご用命承りますよ」
現れたのは、革のつなぎでできた防具を全身に着け、弓を背負う若い女性だった。金色の髪。一見華奢だが、ルヴァンは瞬間指先を目にし、かなりの手練れと判断した。
「弓や剣から身を守る盾をお願いしたいけど、どうかな?」女性は言った。
「弓に特化したなら、様々なタイプがありますが」ルヴァンはそういうと、壁にかかった小さな軽金属の盾を手に取り、カウンターに置いた。「お客さんなら、動き回るのに便利なタイプですか?」
「そうだな~。私は筋力ないから、軽い材質だと助かる」
セントラルの兵は、運河を挟んで戦う弓は主戦部隊の1つ。彼女は若く、また女性でその地位は珍しい。ルヴァンは少し興味をひかれた。
「盾を弓兵は普段持ちません。近距離で闘う命をお受けで?」
女性は笑った。「鋭い。特命ですよ」
「軍の機密には口出ししません」ルヴァンは静かに言った。「うちの防具が役立てばいいだけで」
「では、イージスの盾はどうかな?」
ルヴァンは手を止めた。警戒心をあからさまに女性へ向けると、カウンターの下にある短剣に手を伸ばす。
女性はふふっと笑った。「いや失礼しました。ルヴァン殿は、そのことを知られてないと思っていたとは意外。いや、もう1つ失礼。私は一人で来ているし、警戒していただくことをしに来てはおりません」
「では、なぜそれを?」
「アトラス戦役の、1つの闘い。軍が全滅したホワイトドラコンのブレスによるものだったか。その唯一の生き残り。調べてみて推測ですが」女性は、つかつかと店内をルヴァンの方へ歩き始め言った。
「失われた、イージスの盾の守りによるものであろうと」
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