赤い本

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 橋から歩きだしてすぐ、桜子の家へとたどり着いた。桜子の家には明かりが一つも灯っていなかった。夜の中にぼんやりとその輪郭を浮かべているだけで人の気配は一切感じられなかった。青年は家の様子に違和感を覚えた。 「君……この家には人がいないようですが、君は一人暮らしなのですか」 「いいえ、お父さんとお母さんと一緒に暮らしています。ただ……二人とも仕事が忙しくてあまり帰ってきませんから一人暮らしみたいなものです」  青年は少し目を見開いた。そして、ためらうような仕草をしてから桜子の方を真っすぐに見つめた。 「そうだったのですか。もしも寂しくなったら、本を読むことをおすすめしますよ」  桜子は胸が温かくなるのを感じた。そして青年の目を見つめ返し、力強く頷いた。青年は安心したような表情を浮かべて桜子に別れの挨拶をした。今日もまた青年は夜に溶けていてしまった。桜子は夢の中にいるような浮遊感を抱え、おぼつかない足取りで家の中へと入っていった。  その後、桜子は部屋で本を読んだ。リビングの本棚から適当に選んだ本だった。しかし桜子にとってその本は退屈であった。言葉は桜子の頭上を通り過ぎていくだけであった。本を閉じ、欠伸を一つ。桜子はベッドへ潜り込んで穏やかな寝息を響かせた。         
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