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私が彼女に初めて会ったのは、私がまだ幼かった頃だ。
彼女は私を見つめていた。ガラス越しにただ見つめていた。
私は気にも留めていなかった。私を見ていく人間はたくさんいたからだ。
ただ、彼女は少し違っていた。
私を見つめているその顔は笑顔で、真剣な目をしていた。
私は彼女に抱かれていた。彼女は優しく私の頭を撫でながら、何か鳴いていた。
「この子にします」
私は彼女の鳴き声が理解できない。
* * * * *
懐かしい匂い。暖かな温もり。とても落ち着く。
母の匂い、母の温もり。顔はぼやけていてよく見えないが、この匂いと温もりは忘れることはない。
ふと目を開ける。まだ見慣れない景色がそこにはあった。母の匂いは薄れていき、残り香を消すように嗅ぎ慣れない匂いが嗅覚を刺激する。
まだ慣れない、だが、居心地のいい温もりが私を包み込む感覚が少しずつ戻ってくる。
「起きた?」
少し聞き慣れた鳴き声。相変わらず言っていることは分からない。
顔を上げると彼女がいた。
私は欠伸をする。彼女は私の背中を撫でた。その撫でられ方が気持ち良くて、喉を鳴らす。
彼女の部屋に来て数日が経った。匂いにも慣れ、彼女の存在にも慣れてきた。見慣れない景色に戸惑いながらも、景色の中には必ず彼女がいた。私は暖をとるために彼女の膝に丸くなる。
彼女は常に私を見ていた。
ご飯の時も、寝る時も、トイレの時も。
少々ウンザリだが、気にしないでいた。
この部屋は彼女の部屋だろう。何故なら彼女しか見ないからだ。
だが不思議な事に、壁の向こうから彼女以外の鳴き声が聞こえる。彼女より少し低めか同じくらいの鳴き声、低めの鳴き声、低く太い少し怖い鳴き声。
相変わらず何を言っているのかはわからない。
壁の向こうに何があるのか私は知らない。
ただ、彼女は時々私を置いて部屋を出て行く。明るいうちから、日が沈みかけるまで。
私は何度が後を付いて行こうとしたが、彼女は即座に壁を作ってしまった。
変な突起物の付いた壁。彼女はこの壁を動かして出入りしている。私には動かし方が分からない。
だが、時が経てば壁は動き彼女が来るのはわかった。
私はそれまで眠る事にしよう。
* * * * *
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