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いじめられっ子と最強の姉
かつて『魔王』が行った悪行と、美しき姫が尊い命と引き換え『魔王』を滅ぼしたという話は様々な詩人や語り部によって語り継がれ、わずか10数年の間に、国中の人間が知るまでになっていた。
人々は姫に変わらぬ敬愛を捧げ、自分たちを脅かした『魔王』を憎んだ。
王都から遠く離れた山間にある小さな村でも、それは同じだった。
カンッと、乾いた木がぶつかり合う音が響く。
村はずれにある広い野原では、毎日のように子供たちが集まっている。子供たちは木の棒を振り回しては、「騎士ごっこ」と称して遊ぶ。
その騎士ごっこも、「悪者」を倒せばフィナーレを迎える。
「やぁ!」
「ひっ」
ひときわ大柄な少年が、細身な少年に木の棒を突き付ける。
細身な少年は、大柄な少年の剣を涙目で受け続け、手はしびれて、最後には持っていた木の棒を取り落としてしゃがみ込んでしまった。
「なんだよアンリ。魔王なんだからもっと強そうにしろよ」
「そ、そんなこと言ったって……」
なおも涙ぐむアンリと呼ばれた小柄な少年を、周りの少年たちが笑った。
12歳になった今でも、アンリはすぐにべそをかく「泣き虫」だった。
「アンリに魔王役は向いてないんじゃないか? だって弱いし」
「じゃあいっそ、お姫様やらせるか?」
「や、やだよ。女の子の役なんて……」
少年たちが一斉に笑うと、アンリはさらに俯いてめそめそし始める。
すると、そのやりとりが合図であるかのように、遠くから地響きのような叫び声が聞こえてきた。
「こら~!! あんたたち、またアンリをいじめてるわね!」
「げっ、やばい。カトリが来た!」
その声が聞こえたら解散というのが、少年たちの間では暗黙の了解だった。
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