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黒い本と見知らぬ人
その日、アンリは書斎にいた。暖かな日差しの中、朝から書物にまみれて空気を満喫する……はずだった。
家の外からドタドタと騒がしい足音が聞こえるまでは。
「アンリ! すっごいもの見つけたわよ!」
カトリは窓の外から叫んでいた。
「カトリ、今日は森の奥に行ったんじゃ……」
「行ったわよ。それでコレを見つけたから戻ってきたのよ」
カトリの目がキラキラ輝いている。「戦利品」を見せびらかしたい時の目だ。
おとなしくカトリの「戦利品」を検分しに行くと、カトリは何やら黒い塊を渡してきた。
「……泥だらけだよ?」
「だって土の中から見つけたんだもの」
「いったい何やってたの……」
とりあえず表面の泥を払うと、どうにか革らしき素材が見え、それが本の表紙であることに気づいた。
「これ……本?」
「そうよ。書斎にあるどの本よりすごくない?」
『すごい』と言うのは、この場合おそらく『重さ』を指す。確かに両手で持っても取り落としそうになるほどずっしりと重い。
本の表題は見当たらないものの、表紙は立派な革づくりで、重みに見合った厚みがあった。
「……何が書かれてあるんだろう」
恐る恐る、アンリは表紙に手をかけた。
その瞬間、アンリは不思議な温かさを感じた。先ほどまで温度を感じなかった表紙から、熱が伝わってくる。いや、「入ってくる」といった感覚だった。
指先から手のひらへ、腕へ、肩へ、胸に、そのもっとずっと奥へ、体の中に暖かなモノが浸透していく。
「……アンリ?」
気付けばアンリは、重い表紙をわずかに開きかけたまま動きを止めていた。
「ねぇアンリ、どうして……泣いてるの?」
「え?」
カトリに言われて気付いた。体の内だけでなく、頬にも暖かなものが伝っていることに。
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