きざはし

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 そうか!世界がどんなに笑えるか!信仰心が試されるとは!確かにこれがあっては救主は天界に入れない! 「見た所およそ八人の筆跡がある。直接の使徒の数と同じだ。つまり専門家集団が一人を演出したんだろうな。」  ジャンはそう言った。  これが世に知れたら世界はとんでもない事になるだろう。公開してはならない。 図解まで使って恐ろしく明解に記されていたのは些細な物から大掛かりな物まで様々な奇跡を行う方法だった。  稀代の奇術師が記したそれは行う前の準備や実際に行った状況や民衆の反応、改善すべき点にまで至っていた。  トリックだけではない、民衆の心を掴む心理的誘導法や、敵対勢力を味方にする方法、政治的戦略、当時としては最新で画期的な医療や薬学についても触れられていた。 「神は紛い物だった…」  僕の言葉にジャンは笑った。 「世界を一つにまとめたペテン師ってすげぇなぁ!」  思わず力が抜けて僕はぺたんと座りこんだ。こんな事知っちゃったらどうすればいいんだよ。 「神はいなかったって事か…」 「それは違うぞ。」  ジャンは珍しく真顔で言った。 「ヤハンが宣教を始めた頃人々は平等じゃなかった。権利を持たない奴ばっかだったんだ。それを平らにした。たった九人で出来ると思うか?俺は神の意志だと思う。」  僕は呆れた。 「オカルト信じないんじゃなかったのかよ。」  ジャンは笑った。 「救主はよ、神になる為に神になったんじゃない。人間の為にこれを書いたんだ。」  その後僕達は無名で教皇にそれを郵送した。  あんな事になるなんて知らずに。  教皇は涙に打ち震えながら『これがあっては救主は天界へ入れない。』と繰り返しながら炎に身を投じたそうだ。  胸に僕達の良く知る本を抱いたままで。 
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