きざはし

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 僕達の秘密基地がある裏山だ、時々釣りなんかする小川があって、僕が着くと対岸にジャンはいた。 「来たな。」 「話って何だよ。ここじゃないとまずいのか?」 「秘密の話なんでね。」  ジャンは言いながら小川に踏み出した。そう、踏み出した。  なんだこの違和感は。  だってそうだろ?  「世界がどんなに笑えるか知りたくないか?」  ジャンが歩いて来る。  ゆっくりと。  一歩ずつ。  川の上を!  何が起こってる?川の上?だって、泳げるんだ。そう言う深さなんだ。なのになぜ膝が濡れない?踝さえ浸からない? 「何だ?腹ペコで声も出ないのか?持ってる物食ったらいいじゃないか。」  ジャンは笑うけど僕は何も持ってきていない。  持ってきていないのになぜこんな大きなパンを持っているんだ!  そこで僕は息を飲んだ。こんな事があっていい訳がない。ただの悪ガキがして良い事じゃない!  相手も僕が何を思ったのか察しがついたようにニヤニヤする。 「だって…燃やしたろ?お前まさか…。」  ジャンは僕の目の前まで歩いてくると後ろに抱えていたものを胸に抱いた。  大魚が船を引く図柄が描かれた革の表紙。  それは!  彼は血の気が引いている僕など気にもせず、無造作に、事もあろうにそれを僕に放った。   弾かれる様にして僕はそれを必死で掴んだ。放るなんて! 「お前にも見せてやるよ。」  宿題の回答でも渡すかの様な言葉に自分でも目が見開かれているのが分かる。喉が痛いほどカラカラになって耳の中がズキズキした。 「おま…何言って…」  しかし震える僕の指は表紙にかけられている。  簡単に開いて良い物なのか?僕なんかが見て良い物なのか?  冷や汗と共に様々な思いが巡る、と次の瞬間ジャンが言った。 「はい、30分!悩み過ぎ。嫌ならやめとけ。しっかし真っ白な顔してるな。」  受け取って戸惑った程度しか経っていないと思ったのに? ジャンのコケにした様な顔が気に入らなくて僕は口を結んだ。 あいつだって開いたんだ! 自分の物じゃないようなぎこちない動きの手で僕はそれを開いた。  これが神の英知!まるで海綿が水を吸うかの様に頭に浸透してくる。何て解り易いんだ!  次の瞬間僕はこれまで出した事がない様な狂った笑い声を上げていた。ジャンも倣って爆笑する。  山の中で僕たちは狂気の笑いを高らかに挙げ合った。
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