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どうせジャンではなくオカルトマニア達の考えなのだろう。だから反論できなくてもジャンの手柄ではない。僕はそう思う事で得意そうなジャンの顔に腹を立てないようにした。
「で、『きざはし』はどこへ運ばれたって言うのさ。」
「マンデルロー大聖堂さ、神聖騎士団の総本山だ。」
「ちょっとまてよ。」
僕は歴史で習った怪事件を思い出していた。ジャンの奴がニヤリとする。
「無関係にも思えないだろ?」
神聖騎士団騎士団長、聖アントニスの狂乱事件だ。
深夜に高笑いしながら長柄の戦槌を振り回し、施設だけでなく所蔵されていた貴重な神聖遺物まで破壊し続けたと言う怪事件。武勇の誉れ高い彼を無傷で止めることは不可能で多大な犠牲者と引き換えにようやく絶命させたと言う。
信心深く高潔な聖騎士が悪魔に憑依されたと国中を震撼させたそうだ。
「彼も開いたのさ。身の丈に合わなかった。それで気が触れたんだ。」
僕は首を振った。
「あれはコカインのせいだって習ったろ?隣国が攻入るのに邪魔な騎士団長を間者を使って狂わせた、だから事件の後まもなく侵略戦争が起こっているじゃないか。」
今度はジャンが首を振った。
「違うな、聖アントニスが死んだから攻め込んできたんだ。あの戦争の目的は何だったと思う。大国相手に小国が必死に攻め込んだ理由、それだけじゃない、それをきっかけにあらゆる国を巻き込んで世界中が戦場になった。まるで戦争に参加する事に後れを取るのが嫌であるかのように。」
僕は口をとがらせた。
「知らないよ!戦争は金になるって思った奴が多かったんじゃないの?」
「欲しかったんだよ。」
ジャンは言った。
「どの国も欲しかったのさ。世界が。神聖騎士団の足並みが崩れているのはチャンスじゃないか。」
その悪戯っぽい笑みがなんだか癪に障る。
「おい待てよ、じゃぁあの世界戦は『きざはし』の奪い合いだったって言うのか?」
冗談じゃない!大勢死んだんだ。今だって世界中で傷跡を引きずっている。
人を救う筈の物が大虐殺の原因になったって言うのか?
「げに悪しきは人の欲だよな。」
結局戦争はどこも勝たず、疲弊しきって総倒れになった。
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