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一年半前──蛍ちゃんと最後に会った時。
「あかねお姉ちゃん、助けてっ!」
蛍ちゃんがわたしに助けを求めてきた。
蛍ちゃんの飼っているハリネズミが、病気で命を落としかけていると。魔法で救ってほしいと。
『白の書』には生命、光、星といった生界の魔法が書かれていて……中には『どんな病気も治癒できる魔法』もあった。
学校での事件よりも一番絶望を感じた瞬間だった。
なんて言ったらいいんだろう、わたしのことを信じて、信頼して、荒唐無稽な話を真実だと疑わなくて、魔法も魔術も天使も悪魔もいないこの現実世界で唯一わたし以上に『紅』を信じてくれた少女に。
「『紅』はいないの、あれは全部……嘘」
なんてどうして言えるだろう?
『紅』の世界に神は存在しなかった、わたしが上手に設定に組み込むことが出来なかったから。でもこの時だけは神様に祈った。どうか蛍ちゃんのハリネズミを助けてあげて。
『白の書』に書かれた自作の呪文を呟きながら、弱々しく痙攣するハリネズミのウニを優しくなでた。
翌日、祈りは天に届いたのかわからないけれど……ウニの容体は回復した。
「ありがとう! あかねお姉ちゃん本当にありがとう!」
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