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そこそこの歳月が過ぎても蛍ちゃんを特徴付ける外見はまったく変わっていなかった。くりっとした大きな目には宝石みたいなグリーンアイ、さらさらの腰に届くほどの長い黒髪。まるでお人形さんみたいな美少女っぷりは相変わらず。中学2年で縦への成長を放棄したわたしの身長ともうすでに並んでいる……。
んが、まず何よりも、女子中学生の足と公共交通機関を乗り継いでおおよそ2時間はかかるであろう距離を、一年半以上顔を合わせることのなかった実家の隣に住んでいた美少女が訪ねてきたのだと一瞬で理解できたのか。
彼女の着ている服に見覚えがあったからに他ならない。
セミすらも土の中に引きこもってしまう、うだるような暑さの中で。
蛍ちゃんは太陽光吸収率100%の真っ黒な長袖のロングコートを着込んでいた。
ご丁寧にフードまで頭にすっぽりと被って。
コートの右肩部分には星形の手作りのアップリケが張り付いていて、左肩には三日月のものが。向き合っているから見えないけれど、背中には間違いなく天使の羽と悪魔の羽が片翼ずつ描かれているだろう……。
「……蛍ちゃん、暑くない?」
「暑いです!」
だよね、それで暑くなかったら地球温暖化は存在しないよね。
額に汗を浮かべている蛍ちゃんを炎天下の元に晒しておくわけにもいかないので、とりあえず玄関へ招き入れて扉を閉める。が、靴はまだ脱がせない。聞くことがあるからだ。
「それで、蛍ちゃん、どうしてここに……?」
Howではなくて、Why。
「あかねお姉ちゃん、蛍ね、大人になったんだよ!」
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