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……唯一救いだったのは、当時好きだったキャラクターが『いつも細目で笑っているのだけれど内心何を考えているか分からない、本当の力を隠している参謀的ポジにいるやつ』だったことだ(本当は、その声を当てている声優が好きだっただけなのだけど。なおその声優はわたしが愛と魔術を込めて作ったチョコレートを贈った翌日に一般女性とのデキ婚を発表した)。そのキャラに倣い、わたしは学校では自らの力や課せられた運命を秘密にし、何があろうとも常に笑顔のキャラクターであろうと心がけた(当然一人称はぼくだ)。「なに目でも悪いの?」と理解のないクラスメイトから心配されながらも、教室の隅に座って騒がしい同級生を超然とした面持ちで眺めながら時折ふうとお気楽な何も知らない人間を憂いてため息をついたりしてしまうという、傍から見ればちょっと大人しい女の子、だったと思う。しかし太陽が沈み世界が暗い夜に覆われれば、黒いお手製のコートを着込んだ宿命を背負う乙女に早変わり、というわけで……。公園の真ん中に拾った木の枝(勿論マジックアイテムとして名前も付けた)で魔方陣を描いてその中に立ち月を見上げたり、小高い丘のベンチの上でリコーダーを吹いてみたり(本当はヴァイオリンがよかったけれどそんなスキルはなかった)。
ただ、秘密というものはたった一人内に秘めているだけでは成立しない。だれかと共有することによってはじめて形となって、とっても甘美な、特別なものになるのだ。その秘密の共有者が誰かっていえば……隣の家に住む、4つ年下の蛍ちゃんだった。
蛍ちゃんとわたしは家が隣同士でお互い一人っ子というのもあって、本当の姉妹みたいな関係で育ってきた。小さなわたしが、さらに小さな蛍ちゃんの手を引いて。4つも先に生まれているのだから蛍ちゃんに出来なくてもわたしには容易なことなんて沢山あるのに。家の鍵を開けて入ることも、逆上がりをすることも、二桁の数字の掛け算が出来ることも、難しい漢字の書かれた本が読めることも。
「あかねお姉ちゃん、すごいね!」
いつもきらきらと曇りなきまなこで見上げてくる可愛らしい妹に、わたしもまんざらではない気持ちだった。
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