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この局のシュートにはオレンジと青のレーンがある。東側ではオレンジのレーンになだれ込んでくる荷物が圧倒的に多い。彼はこの数ヶ月でそれを学んでいた。長くいるおっさんは若い新人に当然のようにオレンジのレーンをあてがう。新人の彼はそれに不満を漏らすことは許されなかった。
「こっちは俺がもらう。貴様はフォローよろしくな」
きつい方のオレンジのレーンに陣取ったこの男は笑ってこういうのだった。
6番シュートは過酷を極めた。とめどなく流れてくる荷物が途切れることはなかった。それでもこの男は警告音を出すまいと奮闘していた。彼の方の荷物は少なかったがそれでも額に汗を流さずにはいられないほどの物量だった。
「すまない」
自信家に見えたこの男が申し訳なさそうに、こっちのレーンに荷物を押し出した。さらに荷物が増えて一杯一杯のはずなのに彼は笑みを浮かべていた。頼られたことが嬉しかった。
彼は小さくうなずいて、懸命にこの荷物を処理するのだった。
一段落ついて休憩時間に入る前、この男は彼に頭を下げた。彼も同じように頭を下げた。それで充分だった。伝わったと彼は思った。
シュートに入っていると時間が一瞬で過ぎ去るんじゃないかと彼は夜明けの空を眺めながら思っていた。後は帰るだけだ。
守衛に挨拶をして郵便局の玄関から原付バイクのある駐輪場まで歩き出す。
「よう」
だが、彼の歩みを止めるものがあった。あの男である。
「楽勝だったな」とこの男は言った。
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