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男の声がこだました。なんという声量だろうか、誰もが動きを止めた。一人のシュートコーディネーターが地面に荷物を置いたのである。シュートにあふれた荷物を地面の置くことでシュートの決壊を回避することは禁止されていない。荷物があふれたときには地面に置いてもいいとアナウンスされている。だが、男の考えは違った。
「荷物を地面に置くことは敗北だ」男はそういった。
「荷物を地面に置く時間があるならパレットにその荷物を積めばいい。貴様はその荷物を地面に置いて他のやつに処理してもらおうと考えているな。自分だけが助かろうとしている。その行為、シュートを放棄しているに等しい。許されざる行為である。消えろ、貴様など必要ない」
その言葉の後、モニターで監視して異変に気づいた課長と副部長が彼らのシュートに駆けつけた。
「こいつ、なんとかしてくださいよ。パワハラじゃないですかー」
地面に荷物を置いた男は怒鳴り立てた。彼は動けなかった。気持ちではあの男をかばいたかった。だが、言葉が出ない。
どういえば、課長を納得させられるのか。思いつかなかった。
「ちょっと、こっちに」
課長と副部長に促されてあの男は連れて行かれた。彼はその姿を見ていた。無表情で見ていた。
退勤間際、あの男を連れて行った課長に呼び止められた。
「チルドの担当をやってみないかな。真面目だからぜひやってほしいんだ」
彼は無表情で答えた。「寒いんですか?」
「寒いけど仕事は楽な方だよ。シュートはしんどいでしょう」
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