10人が本棚に入れています
本棚に追加
ほんの短い文章だった。王子の悩みや工夫や計画、昨夜の騒ぎも涙も数行の文章にまとめられていた。でも、物語は確かに進んでいた。彼が考え抜いてやったことは、間違いでも無駄でもなかったのだ。
「……次こそは」
悲しみと絶望に塞がれたようだった胸の重さは、瞬時に溶けていた。少しだけ中身を増した本を抱きしめて、王子は小さく、けれどしっかりと決意を込めて呟いた。次こそは、もっと長い冒険を、もっと胸躍る物語を。彼の手で紡いでいくのだ。
王子の耳に、どこからともなく少女の高い笑い声が聞こえた気がした。物語の女神も、きっと彼の紡ぐ物語を楽しみに待っているのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!