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「『夜泣き石』って呼ばれている石なの。撫でると子どもの夜泣きが治まるって、言い伝えがあるのよ」
もはや「石」と言うより「岩」に近いサイズの灰色の塊に、白い紙が垂らされたしめ縄が張り巡らされており、どこか神聖的なものが感じられた。
「ほら、撫でて撫でて」
連日の夜泣きに、ほとほと疲れ果てていた加奈子さんは、神にでも縋りたい気持ちだったので、女性の言葉に素直に従った。
石はひんやりと冷たくて、加奈子さんの手のひらから熱を奪っていく。そろそろいいかなと手を離そうとすると
「撫でれば撫でるほど、ご利益があるわよ」
背後にいた女性が煽ってくる。
「はぁ……」
片手で抱っこの姿勢も苦しくなり、石の冷たさのせいか指先まで痺れてきた。
「えぇと、私そろそろ……」
赤ちゃんがぐずりだしたのを理由に、帰ろうとすると
「大丈夫。私があやしていてあげるから、ホラ」
女性はなかば強引に、赤ちゃんを加奈子さんから取り上げようとする。
「結構です! すみません、もう日も暮れてきたので」
少々キツめの声が出てしまったなと思いながらも、女性にただならない雰囲気を感じた加奈子さんは、足早にそこから立ち去った。
結局その夜も、娘さんは激しく夜泣きをし、加奈子さんまで疲れからか発熱し、散々な夜となった。
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