夜に泣く

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「『夜泣き石』を撫でたのに、まったく利きませんでしたよ」  熱が下がった翌日、加奈子さんは苦笑いで聡子さんに前日あった出来事を告げた。すると 「……加奈子ちゃん、それどこの話?」  聡子さんの顔がみるみる青ざめていく。 「どこって……」  加奈子さんは事細かに「夜泣き石」があった場所、そこを薦めてくれた若い妊婦の説明をした。  黙って聞いていた聡子さんは、加奈子さんの話が終わると、静かに口を開いた。 「加奈子ちゃん、そこにはもう二度と行っちゃダメよ。あの石を撫でても夜泣きは止まらない。あの石はね、不運な事故で亡くなった人たちを祀っている石なんだから」  以前、あの付近の洞窟から有毒なガスが発生し、近くで山菜採りをしていた人たちが亡くなる事故が起きた。以降、あの一角は立ち入り禁止になったのだが、毎夜あの大石から、女性の泣き声のような音が聞こえてくるという噂が広まった。  慰霊の為に石には祈祷が施され、現在ではガスの発生も収まっているが、地元の人間は気味悪がってわざわざ訪れる場所ではないという。 「じゃあ、どうしてあの妊婦さんは『夜泣きに効く』なんて言ったんでしょう?」  というより、あの女性は地元の人ではなかったのだろうか。     
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