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よその村からあの土地に嫁入りした娘が子どもを産んだ。赤ん坊は痩せっぽちの女の子で顔色も悪く泣き声も弱々しい。きっと長くは持たないだろうと、嫁の寝ている間に夫と姑はその子を石の傍に捨てに行った。
それに気付いた嫁が駆け付けたときには、山に棲む獣に無残にも食いちぎられた我が子の亡骸が残されているだけだった。
絶望のあまり、嫁は自分の身体を石にくくりつけ、毒ガスを吸って自らの命を絶った。
以降、村では若い妊婦がどこからか現れて、小さい子供や赤ちゃん連れの母親に声を掛け、石の場所へ誘ってくるという噂が流れた。
女に誘われて、石の近くに長くいた為に高熱に冒されたり、幻覚を見たりする者がいまだになくならないのだと。
お腹の大きな姿で現れる女は、愛する子どもを失った母親の一番幸せだった頃の姿なのだろうか。
彼女は人々をあの場に誘い込み、どうしようとしているのだろうか。
あの世への道連れか?
それとも、悲惨な過去を忘れないでほしいという、無念の死を遂げた彼女のメッセージか。
「そんな噂、信じていなかったんだけど、あのとき加奈子ちゃんが会ったっていうのが『若い妊婦さん』って聞いて怖くなっちゃってね」
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