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藤緒とも個人的な付き合いのあるらしい亜利紗は、「凄い美人だったでしょ。あれで社長みたいなデッカイ息子がいるとか、信じられないよねー」と呑気な感想を口にした。
「うん……。それでえっと、真邉さんの今度の映画用の衣装を、O-Cが手掛けることになったんだけど、月曜日にそのデザイン案を、私も提出しないといけなくて……」
「へーっ、凄いね! どんなのにするつもり?」
「え……。いや、まだ全然、考えてないんだけど……」
「あ、そうなんだ。じゃあ明日と明後日はそれにかかりきりだね」
「そうだね……」
そのデザイン案の結果如何では、自分がO-Cをクビになるかもしれないことを、けれど花衣は結局、亜利紗に話せなかった。
自分のいる場所でしっかりと立ち、傍から見れば無謀とも言えるような大事業を興そうとしている双子の妹に対し、姉の自分は与えられたチャンスすらろくに生かせず、宿題のアイデアさえその妹に頼ろうとしていたことに気づき、己の甘えた根性に気づいた途端、何も言えなくなった。
互いの近況報告で電話を終えた花衣は、通話の切れた手の中のスマホをぼんやり眺めた。
一瞬、一砥本人に電話してみようかと考えたが、かけて一体自分は何を話すのか、今さら心配していますなんて台詞、どの口が言えるのかと考えると、また自分が恥知らずに思えてきて、気分はさらに落ち込んだ。
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