伯楽一顧亭にて

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 だが、ともかく酒である。メニューリストの端っこに申し訳程度のフォントサイズで書かれていた営業時間は、この真夜中を雪に吹かれることなく居られるだけの時間であった。予報では今夜半には止むとのことだった。それをしのげるならば万々歳である。安心しながらなんとなく頼んだモスコミュールを一口飲もうとしたときだった。 「おや……」  横から声を掛けられた。美しく響くバリトン。周囲には俺しか居ない。ということは、紛い無く俺に掛けられた言葉だろう。そう判断してそのバリトンの発信源へと顔を向けた。
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