酒匂氏の話: 大会

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 横で神酒村氏が私を見ながら嬉しそうに言いました。その人が一体誰なのか知らないため、何が嬉しいのかも当然ながらわかりませんでした。 『モリタさんってね、この列車の製作者で私たち《黄雲会》の長なんですよ』  私の右隣に座っている涌水香織【わきみず・かおり】という女性が教えてくれました。香織嬢は、『クリスタル・アイズ』で出会った4人の内の一人です。概念的に 《『クリスタル・アイズ』メンバー》とでも言っておきましょうか。  声を聞いた感じで、なかなかに御年を召した方であるのは予想できていましたが、この列車を作ったということには驚きました。レールも敷かれていない、雪の札幌を駆け巡る列車を作り出すとは一体どんな芸当を持ちなさっているのか、皆目見当もつきませんでした。さらに、私の耳には聞きなれない言の葉がひらりと舞い込んで来ました。  他ならぬ、《黄雲会》です。 『黄雲会というのは、簡単に言ってしまえば酒が好きな人間の寄り集まりだよ。ただし、常人の程度ではないがね』 『皆さんが武勇伝をお持ちなんですよ。ワイン樽を一気飲みであけてしまったとか、店の酒を一人で飲み干したとか』 『そうして、うわさがうわさを呼び、酒好きが酒好きを呼んで出来上がったのが、この黄雲会なのです』 『それで、この会の創始者がさっきのモリタさんなんですよ』
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