酒匂氏の話: 大会

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 やはり私は考えていることを、直接的に、表情に出していたようでした。4人の『クリスタル・アイズ』メンバーが、変わり変わりに黄雲会の説明をしてくれました。彼らが話したのはほんの表面的なもののようでした。私は全体像の十パーセントも掴めていませんでした。モリタ氏の全貌について、先ほど実際に放送で流れた声以外に、明確な情報が得られていないのです。これは致命的でした。  しかし、神酒村氏は私に笑いかけました。 『モリタさんが放送をかけたということは、そろそろ私は後ろ側の車両に移動しないといけないかな』  何故です。私は訊きました。 『実はね……』と、神酒村氏が口を開いた瞬間でした。 『ええ、本年は今日を含めても残り10日となりました。例年になく早いのですが、本年最後の集まりということで恒例行事であります、《闘酒》の開始をここに宣言いたします』  前側の車両のみならず、後ろ側9両目・10両目以降からも怒号のような歓声が響いてきました。まるでこの車両だけが無人のようでした。 『闘酒会場は最後尾、新規に制作致しました12両目。出場なさらない方はそのまま現在いらっしゃる車両に留まりください。本年はプロジェクターを用いての実況放送を実施致しますので、皆さん、どうぞ、くつろぎながら御覧下さい。勿論、グラスを片手に。あ、無論、諸手に持っていただいても構いませんよ』
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