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車内放送の終了を告げるチャイムが流れると、神酒村氏は再度私に向き直って、
『実は、今年も闘酒の出場メンバーに選ばれてしまってねぇ』
彼と、『クリスタル・アイズ』メンバーの話を総括するとこうなります。
闘酒というのは、年末最後の黄運会の会合で行われる恒例行事であり、且つ最大のイベントとのことでした。内容は、至って単純に、どれだけ多くのアルコールを一定時間内に飲むか、という《酒豪競争部門》と、飲んだ酒の銘柄を確実に当てる《利き酒部門》のふたつです。かつては時間耐久もあったそうですが、ある年に2名の選手が1日中飲み続けてそれでも決着が付かなかった、ということがあったらしく、翌年から耐久競争は削除されてしまったそうです。
数百名もの酒好きを抱える黄運会にあって、選ばれる選手は各部門で4名。神酒村氏は酒豪競争部門に4年連続で選出されており、現在4連覇中。前人未到の5連覇を阻止するような人間も居らず、ここ最近は審判に徹していたモリタ氏が自らの参戦を名乗り上げた、とのことでした。
『そうだ!』
失礼するよ、と立ち上がった神酒村氏は、私を見ながら破顔しました。何事かと思いながら、私は彼と視線をぶつけました。
『どうだい、君も出てみないか?』
いつの間にやら、私を《旦那》と呼ばなくなっていた神酒村氏は、私に酒豪競争部門への出場を提案してきました。
確かに、これまたタダでお酒が愉しめるらしいので、私もこの提案は内心では非常に喜ばしく思っていました。しかし、私は飽くまでも神酒村氏のゲストに過ぎず、飛び入りでの参加など、この闘酒への出場を心底から望んでいた方に申し訳ないのです。
そう思いながら、お断りを申し上げようとしたときです。
『クリスタル・アイズ』メンバーが、煽り始めます。全部の店を看板にしていったじゃないか。〈スクリュードライバー・改〉だって一気飲みできたじゃないか。などなど。
さらには、私がモリタさんに言ってあげるから、と神酒村氏が言うに至って、私は十二両目へと向かう決意を固めました。
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