酒匂氏の話: 大会

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 12両目は木製の長テーブルが四台と、椅子がテーブル1台に対して2脚ありました。どちらも上質そうに見えます。その正面には、どこかのテレビ局が使うような大型のテレビカメラが合計6台ありました。  こんな設備を作れるモリタ氏とは、どんなお方なのだろうと思いながら車両の見渡しますと、居りました。別段、服装が派手というわけではありません。ですが、なんというのでしょう。雰囲気といいますか、眩いオーラが見えたのです。  モリタ氏は濃紺の紋付袴に身を包んだ好々爺でした。つるりとした天然のスキンヘッドは実に若々しく耀いておりました。これがオーラの原因の一部分なのかもしれません。  彼は神酒村氏を見つけると、温和そうに微笑みました。 『やあやあ神酒村君。久しぶりだねぇ。どれくらい会ってなかったかな』 『たしか半年はお会いしていなかったと思います。これですか、その間に制作なさっていらしたのは』 『ああ、そうだ。今回は1両だからそれほど大儀ではなかったがの』  老成した声と風貌をしているわりには、背筋はピンと伸びていましたし、手肌につやがありました。快活な笑い声は彼の若々しさを如実に表しています。 『おや、神酒村君。そちらの若い方はどなたかな?』  モリタ氏は私のほうを見、近付いてきます。神酒村氏が最高敬意をはらうお相手ですから、私はその場で45度の深礼をしました。かしこまらなくてもよい、と言われましたが、私は自分の会社の社長に謁見するときと同じくらいに身体が硬くなりました。
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