4人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
こちらの宴も、酣
「これで私の話はおしまい」
満足気な表情で、俺を見る。彼を満たしているのは、語りつくした満足感なのか。それとも、今まで飲んだ百杯は越える酒に対するものなのか。俺には量りきれないものだ。
「長々と話してしまったが、どうだね。面白いと思ってくれればいいんだが、此処まで長いと厭になってしまうかな」
「いえ、そんなことありませんよ」
本音だった。倦怠感は不思議と無かった。これの何分の一の長さか分からないが、上司の小言よりは余程聞ける。
「そう言えば……。君の苗字もモリタだったよね」
「ああ……。でも文字が違うじゃないですか」
宴が多い、でモリタ。俺は一般的に、森に田んぼの田だ。
「でも君も酒に強いじゃないか。まだ二十代の前半だろう? 若いのに素晴らしいことだよ。私は、君と宴多さんとが全くの他人だとは思えないんだがね」
確かに、俺もそう思っている節がある。だが、酒匂氏の語り舞台が北海道であることが、俺のその思考に待ったを掛けている。そもそも俺は北海道に何の縁もないからだ。
最初のコメントを投稿しよう!