こちらの宴も、酣

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「それでも。たとえ、貴方がこれを実際に渡されたことが真実だとしても、これを渡されたところを、俺は実際に見たわけではないですからね」  俺の言葉にどういう反応するかと見ていたら、酒匂氏は表情を厳しくした。それは部長クラスの人物が怒ったとき以上の、専務重役クラスの人間が感情を顕わにしたときのものに似ていた。 「百聞は一見に如かず、か。ならば君は、これを私が捏造したというのかね?」  思わず、次の言葉が出せなかった。  そうではない。彼が話していること全てが真っ赤な嘘であるということを証明するのは、彼が話していること全てが嘘も紛いも無い真実であるということを証明するに等しく難しい。経験したと当事者に言われれば、それもまた真実なのだ。だが、それを俺は信じることができないのだ。生憎にも当事者ではないから。 「さっき、君は夢じゃないのかと言った」  酒匂氏は水割りのウィスキー――彼にとっては子供だましのようなものを、静かに啜りながら言う。
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